その瞳をこっちに向けて


 そして渋々ながら口を開く。が、気持ちと逆の言葉を言うのはなかなか難しいらしい。


「ど、どうしても、……一緒に帰りた…………くたないわっ!」


明らかに自分の気持ちが溢れてしまった失敗。


そのせいか、中畑先輩からのなんとも哀れなものを見た目が突き刺さる。


更に、

「はい、失敗。残念」

と全く心の込もっていないその言葉を吐くと、中畑先輩はクルッと私に背を向けドアへ向かって歩き出した。


「あー、嘘です!嘘です!帰りたいです!中畑先輩と一緒に帰りたいです」


そう大声を出しながら慌てて中畑先輩に追い付くと、中畑先輩の制服のブレザーの裾をギュッと掴む。


そして懇願する目を中畑先輩に向ければ、フイッと中畑先輩が顔を逸らし、「バーカ」と口にした。


 それが中畑先輩なりのお許しの言葉だったのだろう。


心底、ムカつくけど。


中畑先輩は人を馬鹿にしないよね。という女子会話を昼休みに聞いたが、あれも誤情報だと今確信した。

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