その瞳をこっちに向けて
みんな速いよ!
こんなの、……めちゃくちゃ言いづらいし!
と思っていても順番は回ってくるわけで。
「11秒63です」
「えっと……」
「工藤…です」
「工藤さんは、くじとかで決まった感じ?」
「は、はい。……あみだクジで」
さっきまでにこやかに微笑んでいた筈なのに、明らかに困った顔になる先輩。
「じゃあ、えっと。真ん中位に入ってもらおっか」
「はい。すみません」
その言葉にしゅんと肩を細め、身を縮こました。
が、それに先輩も気付いたのか、再びニコッと微笑んで私の肩をぽんっと軽く叩く。
「まあ、よくある事だから気にしないでよ!俺も陸上部だし。なんてったって、2年の中畑もいるし」
「中畑?」
陸上部の先輩に凄く期待されているらしいその名前に首を傾げたその時。
「すみません!今日、掃除当番当たってて遅れました!」
そう言ってこっちに駆けて来る男子に先輩が「おう!」と嬉しそうに笑いかける。が、その隣で私は、駆けて来る彼を見て目を見開いた。
「なっ、中畑先輩!」
「ん?」
驚き過ぎて思わず声をあげてしまった為に、中畑先輩の3年の先輩に向けられていた視線が私へと向く。
そして、あの最近よく見る嫌な笑みを浮かべた。