その瞳をこっちに向けて
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何度目か練習の後、中畑先輩の手にバトンを渡そうとした瞬間、ポロッと私の手から地面へと落ちていく。
それを中畑先輩が慌てて掴んだ。
中畑先輩の運動神経が良いから地面に落ちなかっただけで、確実にリレーとしてはタイムロスに繋がる。
「もう、……無理かもしれない」
「無理じゃねぇよ。無理って口にするから無理になんの」
ガックリと肩を落とす私に投げ掛けられたのは中畑先輩のそんな言葉。
あー、出来る人ってこう言うんだよね。
どんなに頑張っても本当にどうにもならない事ってのはあるのに。
「いや、それは出来る人の理屈であって」
「そうなんだよ!」
えぇっ!ごり押し!!
「いやいやいや、そんな中畑先輩の考えをごり押しされても」
「バラすぞ」
ギロッと鋭い目で私を射貫く中畑先輩は本気だ。そして、これは実質的に脅しというやつなんだろう。
勿論そうなれば私の取る行動は1つだけ。
「そうですね!『無理』って言わなきゃ出来ますよね!」
ご機嫌を取ってその脅しに屈するのみだ。