その瞳をこっちに向けて


「まっ、これが中畑先輩なら私も欲しかったけどね」

「中畑先輩?」


鈴菜の口から出たその名前の人物が思い出せずに首を傾げると、鈴菜の眉間にグッと皺が寄る。


「流石に知らないなんて言わせないわよ!」

「…………」


言葉が出ない。



だって私、……知らないし。



 無言で固まってしまった私に気付いたのか、見る間に見開かれていく鈴菜の目。


「まさか本当に知らないの?学校の王子様って呼ばれてるのに?」


そんなバカな!と言わんばかりの口調だが、よく考えると私はその『学校の王子様』という呼び名を聞いた事がある。


「王子様?」


確認の為に訊き返すと、こくこくと首を縦にふって「そうよ」と答える鈴菜。


それに、「えっと…」と口にしながら、慌てて記憶の中の王子様情報掘り起こし作業へと入った。



学校の王子様ってあれよね。

あの、毎日毎日仁先輩と一緒に帰る人。

仁先輩の親友カテゴリーを持っていて、仁先輩に笑顔を向けてもらえるあの人。

羨ましくって、憎らしいあの彼の事。

だと思う。

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