その瞳をこっちに向けて


「どれだけ抜かされたって巻き返してやるよ。絶対にな」

「…………」

「だから気にすんな。工藤」


そう言って、ふわっと私の頭の上に置かれた手から伝わる体温がなんだか温かくて。


手の震えが治まっていく。



この人は、こういう所が王子様って言われる所以なのかも。

癪だけど、言って欲しい言葉をくれる人で。

癪だけど、その言った言葉を何故だか必ず守ってくれると思わさせられる。



「中畑先輩の足の速さは知ってますし。だから一応ですけど、ほんと一応ですけど、……巻き返すって言った言葉。信じておきます」

「そうしとけ」


 シシッと笑って私の顔を覗く中畑先輩の顔を見た瞬間、カァっと頬が熱くなる。突然の事に慌ててプイッと目を逸らすと「一応ですから!」と強調する言葉を吐いた。



鈴菜が言っていた中畑先輩は誰にでも優しい。

あれを誤情報って言ったけど、ほんの少し。極たまにだけど、……優しい時もある。に訂正しといてあげてもいい。

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