その瞳をこっちに向けて


 ツーっと冷や汗が背中を流れたその瞬間、中畑先輩の猛攻が目に飛び込んでくる。


風をきって走るその姿はまるでチーターのよう。



速いとは知ってたし、先輩にまで期待されてた。

でも、ここまで速いって。

…………本当に巻き返してる。



 私が抜かれたのなんて、嘘だったかのように次々と前の選手を追い抜く中畑先輩。またしても、現在2位。更に1位との距離も後僅か。


中畑先輩の姿に悔しいかな目を奪われる。


ギリギリまで攻めたからか、かなりの僅差の2位で中畑先輩から次の選手にバトンが渡される。


本当ならそのまま次の選手へ目を移す筈なのに、膝に手をついて息を荒げている中畑先輩から目を離せない。


その瞬間、



ーートクンッ



大きな音をたてる鼓動。


それにギュッと眉間に皺を寄せた。



中畑先輩を見てときめいたとか……、絶対ないから。



そう自分に言い聞かせながら。

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