その瞳をこっちに向けて
「美音さん?」
首を傾げながら近付いていくと、やはり橋に居るのは美音さんで間違いない。
黒地に小さな白の水玉模様の傘を差して橋から下の川を悲しそうな顔をして覗いている彼女。彼女の着ている紺に紫と赤紫の花が咲いた大人っぽい浴衣がまたその悲しそうな顔を際立たせている。
彼女のその顔が気になり近くまで行くと、そっと声を掛けた。
「美音さん。どうかされたんですか?」
突然声を掛けられた事に美音さんが「えっ!?」と驚いた声を上げ、私の方へと顔を向ける。
そして私の顔を見ると以前会ったのを思いだしたらしく、傘を持っている手を空いている方の手で軽くぽんっと打った。
「あっ!祐の!」
仁先輩が恐ろしい勘違いをしているせいで、美音さんの中でも私は中畑先輩の彼女だと思われたまま。
前に訂正するのを忘れてたつけが回ってきたってやつだ。
「あの、私。中畑先輩とは何でもなくて」
「照れなくても大丈夫ですよ」
にこっと微笑んで私の肩をぽんぽんと叩く美音さんに今何を言っても伝わらないのは明確で。
それ以上言葉を続ける事も出来ずに苦笑いを漏らすと、橋の下の川へ視線を落として話の流れを強引に変える。