その瞳をこっちに向けて


スーっと自由になった身体を生ぬるい風が通り抜ける。その事に自由になって嬉しい筈なのに、何故だか少し寂しいと思ってしまう。


そんなあやふやな気持ちを隠す様に自分の傘を拾うと、傘を取りにいった中畑先輩へと駆けていった。


 真横に来た私に、「ほら、傘」と開かれた透明のビニール傘を中畑先輩が差し出すが、自分の傘を持っているわけで。


「私、傘持ってますから」

「持ってんのかよっ!」

「いやいや。外に出る時に雨が降ってたら大体持ってますよ」

「あー、だな。じゃあ、差せ。バカ」


暴言を吐きながらも納得したらしく、自分の頭上に傘をもっていく中畑先輩。


それに倣って私も手に持っていた傘を開いて差した。


 今更傘を差していても、既にびしょ濡れの服が乾くわけもなく、ピタッと身体に張り付いたまま。その事に眉間に皺を寄せた時、中畑先輩の声が降ってきた。


「で、あんな所で何してたんだよ?」

「探し物してたんですよ。で、今見付けたんでもう大丈夫です」


掌に握っていたペンダントを見せると、中畑先輩の目が一瞬見開かれる。

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