イジワルな初恋
毎朝あの坂の上で、私が来るのを待っていたかのように声を掛けてくる。

だけど、私を無視している同級生に見られたらなんて思われるか、そう考えたら怖かった。

無視だけならまだいい。これをきっかけにからかわれたり、酷いことをされるようになったら……それだけは嫌だ。それなら私は空気のままでいい。

なのに、学校の中でもアイツはしつこくて、つい大声で反論してしまったけど……。



『あんたじゃなくて、中矢太一。今日から友達な』


同級生の言葉が〝温かい〟って感じたのは初めてで、とても不思議だった。


でも友達だって言われても、正直どうしたらいいのか分からなかったし、学校では授業中の発言や必要なこと以外誰かと喋るなんてなかったから。

中矢君の言葉に頷いたり、毎朝くれる『おはよう』に、小さな声で『おはよう』って返すのが精いっぱいだった。


そんな日々が一ヶ月くらい続いたある日、私は知ったんだ。


中矢君の家が……あの坂の〝下〟にある、ということを。


なぜわざわざ坂を登って来るのかは分からなかったけど、そうまでしてくれる中矢君のことを、私はようやく友達って言っていいんだって思えた。



『おはよう』


『おはよう。……あの……今日、天気いいね』


そう言ってチラッと中矢君の顔を見ると、大きな目を見開いて、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言った。


『おう!すっげーいい天気だ!』


中学校生活残り一年を切って、私に初めての友達ができた。



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