イジワルな初恋
校庭に降りる階段の途中に腰をおろした私の視線の先には、汗を流しながらボールを追いかける野球部のみんながいた。


『あー、また見てる。ウケるんですけど』

『ダサいもん同士さっさと付き合っちゃえばいいのにねー』

古藤さんのグループが階段の上からわざとそう言って笑っている。

中矢君と友達になってからの私は少しずつ明るさを取り戻していたけど、きっとそれが気にくわないんだと思う。

空気じゃなくなった私にこうして嫌みを言うようになっていたけど、前みたいに落ち込んだり悲しんだりはしない。


『イジメなんてくだらないことする奴らなんか放っておけ、りりーには俺がいるんだから』

そう言ってくれた彼の言葉で、私は何倍も強くなれた。

一際大きな声を出してチームメイトを励ましている中矢君。彼の姿を見ているだけで私は元気になれるから。


しばらくして顧問の先生のもとに集まった後、片付けをして部活が終了した。

気がつくと、空に広がっていたオレンジ色の夕日がすっかり沈んでいる。


いつもなら野球部の練習を少し見て帰っている私だけど、今日は部活が終わるまで中矢君を待っていた。試合のレギュラーが発表される日だから。


『岩崎、太一ならもうすぐ来ると思うよ。じゃーね』

下駄箱で待っている私に、同じ野球部の山野井君が声を掛けてくれた。

『あ、うん。ばいばい』

こうして野球部の他の部員とも話ができるようになったのも、中矢君のおかげだ。



しばらくしてすっかりひとけがなくなったころ、バタバタと足音を鳴らしながら中矢君がやってきた。


『ごめん、遅くなった』

『ううん、大丈夫』

靴を履き替えている彼をジッと見つめる。

どうだったのかな……。

三年生だけでも十八人いて、二年生にも一年のときからレギュラーになっている部員も数名いて、レギュラーの競争率は高い。

代打以外では、今まで一度も公式戦に出てない中矢君。最後の試合だけは……。



< 59 / 85 >

この作品をシェア

pagetop