イジワルな初恋
その後、野球部三年生にとって最後の公式戦は、惜しくも三回戦で敗れてしまったけど、『夏が終わったな』なんて言いながら、中矢君の顔はとても晴れやかだった。
そしてその目は、すでに先を見つめていた。
『なぁ、今日図書館行きたいんだけど』
『いいけど、なんで?』
『なんでって、勉強するんだよ』
正直中矢君はあまり勉強が得意じゃない。
だから私に勉強を教えて欲しいと言ってきたときは驚いたけど、理由を聞いた私は、中矢君の勉強に付き合おうって思った。
『高校に行っても野球やりたいんだけどさ、志望校に受かるには今のまんまじゃちと厳しいらしいんだ』
『中矢君は本当に野球が好きなんだね』
『ん、まぁな。他に取り柄ねーし』
中矢君の夢は甲子園。
微力だけど、私にできることがあればなんでもする。
私を暗い穴の中から救ってくれた彼の夢を、全力で応援したいから。
友達から遊びの誘いをうけても、中矢君はそのほとんどを断っていた。付き合い悪いと言われつつも、山野井君や他の友達も彼が受験に向けてがんばってるって知ってたから、無理に誘うことはしなかった。
『カラオケ、行かなくていいの?』
『カラオケはいつでもいけるけど、受験勉強は今しかできないだろ』
今の台詞、山野井君たちに聞かせてあげたい。
学校ではいつもふざけてて、小学生みたいにプロレスしたり野球か漫画やゲームの話ばっかりだから、こんなに真面目なこと言うって知ったら、みんなどう思うかな?
想像してプッと吹き出してしまった私を、隣で歩いてる中矢君が不思議そうに見ていた。