イジワルな初恋

その後私も希望の都立高校に無事合格し、卒業まであと一週間を切った。


職員室に行っている中矢君を待っていた私は、誰もいない教室をぐるっと見渡している。

真っ暗だった教室に少しずつ色が加わっていき、今私の目に映るのは灯りの点ったどこにでもある普通の教室。

相変わらず中矢君以外に友達と呼べる友達はいないけど、それでもある一部の女子以外とは挨拶程度なら交わすようになっていた。

最後の最後でこんなふうに普通の中学校生活を遅れたこと、例えそれがほんの数週間だったとしても、私はうれしくてたまらなかった。

全部中矢君のおかげだ。彼が私に前を向く力をくれたから。


『ごめん遅くなった』

『ううん。帰ろ』

ふたりで三階にある教室を出て廊下を歩き階段を降りていると、途中で中矢君が急に立ち止まった。

なぜか私も動くことが出来ず、黙っている中矢君を見つめる。

『ねぇ、ちょっと……今日変だよ?いつもうるさいくらい喋るのに』


『あのさ!』

『え?』


次の瞬間、私の目を真っ直ぐ見つめて言った。


『俺、りりーのことが……好きなんだ』


……え?


そう言い終わっても、彼は私の目を見つめたままだった。


『私……あの、えっと……』


『返事は今じゃなくていいよ』


驚きと緊張でなにも言えない私に、中矢君はそう言って微笑んだ後、再び歩き出した。



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