さよならは言わない
紙コップのコーヒーを持ったまま自分のデスクへと戻って来た森田さんは少々不機嫌な顔をしていた。

昨夜、話が盛り上がったものの長居し過ぎて森田さんの機嫌を損ねたのかと不安になっていると、私の顔を見て挨拶を交わした森田さんは仕事モードの厳しい顔をしているだけの様だった。


「昨日、楽しかったんじゃないの?」

「うん、そうなんだけど」


森田さんの不機嫌そうな表情に友美も不可解な様子だ。

だからと、私は、仕事モードの森田さんを相手に愛想を取ろうとは思わない。

私は派遣社員として仕事に来ているのだから、その分の責任を果たすだけだ。


森田さんは仕事中は一切私情を挟まない人のようだ。

昨夜は人間臭い話を沢山したのに、今は仕事に関係のない話題は一つもでない。それどころか、少しでも曖昧な返事をして作業をしていると怒鳴り声さえ飛んできそうだ。


「笹岡、今から設計課へ行く。お前も紹介するから一緒に来い」

「はい。お願いします」


お昼ご飯直前の時間だった。

森田さんに連れられて設計課へと行き、今回の企画に関しての大まかな打ち合わせをしていた。


「それじゃ、それで一度数字を出して貰っていいですか? それが出来たらこの笹岡へ渡してください。笹岡がデータ化しますので」

「分かった。出来るだけ早めに概算を出してみよう」

「ですがコストはこれ以上かけれませんので予算内でどこまで出来るか期待していますよ」

「期待も何もここまで指示出されるとこちらとしては結構厳しいんですよ、森田さん」


設計課との打ち合わせを終えると森田さんは少々疲れた様な顔をし、営業課のフロアへ戻るまで森田さんは一言も話しをすることはなかった。

まるで、避けられているかのように森田さんは私の顔を見ようとしなかった。


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