さよならは言わない
お昼ご飯の時間になると友美と一緒にランチを食べに食堂へ行こうと思い、デスクの引き出しに入れていたバッグを取り出した。
すると、営業一課の江島さんが私のところへとやって来た。
「あの、何か?」
「別に」
江島さんは私の目の前までやって来ると腕を組んだまま私を睨む様に見ている。
営業一課の江島さんとの関わりは一切ない上に、私と尊の過去を知る者はこの会社では友美だけなのだから、この人に睨まれるようなことは何もないはず。
なのに、何か言いがかりでも付けたいのだろうか、私の前から立ち去ろうとしない。
すると、森田さんが私の腕を掴んでその場から逃げる様に連れ出してくれた。
「ちょっと? 森田さん?!」
あっという間の出来事に取り残されてしまった友美は呆気に取られていた。
「ねえ、あの二人どういう関係なの?」
「江島さんは専務の事だけ気にかけていたらいいんじゃないの?」
「質問しているのは私よ!」
「だったら直接本人に聞けばいいでしょう?」
友美は私達の後を追って急いで社員食堂へと向かって行った。
しかし、私は森田さんに会社の外へと連れ出され社員食堂へは行かなかった。
会社を出て暫く歩くと掴まれている手が恥ずかしくなって森田さんを呼び止めた。
デスクを離れた時から社外に出て歩道を歩く間、ずっと握り締められている手が熱く感じてしまう。
森田さんの手に汗が少しだけ滲んでいるのに気付くと妙に心が落ち着かなくなる。