さよならは言わない

眠る私のそばについていた尊を見て友美の顔色は青ざめていく。

会社では専務にあたりとても平社員がまともに口を利ける相手ではないのに、友美は大学時代親友だった私の元彼としてしか尊を見ることが出来ないようだ。

だから、私を捨て身も心もズタズタにした尊を友美は憎んでいた。


「何故あなたがここにいるのですか?」


友美の低く苛立つ声に尊は戸惑っていた。

すると、何も知らない看護師はありのまま説明をしていた。尊が医務室まで運んでくれたと。


「だから、専務がいなければ彼女は大変なことになっていたのよ。専務には感謝しなきゃ」

「感謝? ありえないわ! 専務、あなたがいなければ絵里が倒れることはなかったのよ。もう、これ以上関わらないで」


冷たく言い放たれ尊は動揺を隠せない。けれど、裏切っていたのは私であり尊はあくまでも被害者と思い込んでいる以上何も変わることはない。


「けれど彼女は精密検査を必要としている。目を覚ましたら病院へ連れていく」

「その必要はないわ」


友美は尊を睨み付けると廊下へ繋がるドアを開け、尊に今すぐ部屋から出ていけと言わんばかりの態度を取る。


「俺のせいで倒れたのだろう? なら、責任もって俺が病院へ連れていく」

「必要ないと言ってるでしょう。絵里はこれでも随分良くなったのよ。働けるまで回復したのだからこれ以上構わないで」


尊と友美の意味深な会話に呆気にとられていた森田さんはただ黙って二人の会話を聞いているしかなかった。

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