さよならは言わない

「嫌よ。一緒に暮らすのは嫌」


今ならまだ傷は浅い。尊が本気じゃないのも理解しているし、理由は判らないけど尊に恨まれているからいずれ別れがくるのも承知している。

でも、一緒に暮らすのは意味が違う。

尊だってもう感情のない相手と一緒に暮らしたくないはずよ。

なのにどうして私を尊のマンションへ連れていくの?


「俺に逆らうことは許さない」

「私をどうするつもりなの?」

「だから、俺が絵里の健康管理をするんだ。このままだと絵里の体が壊れてしまう!そんなことさせない。俺が絵里を守ると決めたんだ。だから、俺が守るんだ」


私を守る?
何のために?
私を健康にして心の傷を治せば、私を捨てるとき心おきなく捨てられるから?


「恨み言を言いたいのは私なのに、どうして尊が私を憎むの?私を憎く思っているんでしょう?私があなたを裏切ったのなら」

「今はそんな話はしたくない」


どうして尊の方が辛そうな顔をしているの?

私には分からない。分からないことばかり。


「今は健康な体に戻るために絵里は俺のところへ来るんだ。NOとは言わせない」


私の肩を抱き締める尊の手に力が入る。その手は少し震えている?


エレベーターの扉が開くと再び尊に肩を引き寄せられて駐車場に停めている車へと行く。

私を助手席に乗せるとドアを閉め尊は運転席へと座った。

私がシートベルトをし終えたのを確認してからエンジンを回した。  

車を走らせる前に尊は私の顎を引き優しくキスをした。

軽く触れるだけのキスだ。

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