さよならは言わない

「絵里、もっとキスしたい」


何故、尊が私を相手にこんなにキスをしたがるのか分からない。

それは、単なる生理現象とおなじこと?
男だから誰でもいいから女を抱きしめキスできればいいの?
それとも、契約したから当然の行為として?
私は尊のものだからなの?

そんなの最初から分かっていることじゃない。尊は私を自分の自由にしたいから契約したのよ。

何もかも契約なのだから。


「……絵里?」


涙が頬を伝わると尊はキスを止めてくれた。

尊のキスは甘くて蕩けるようで幸せになれるのに、今は拷問のキスのように感じてしまう。


「絵里を苦しめたい訳じゃないんだ。……絵里、離したくない。だから、俺のそばにいろ」

「……でも」

「絵里、そばにいてくれ。俺は絵里が心配でたまらないんだ。また倒れそうで俺の前からいなくなりそうで俺は怖いんだ。絵里を二度と離したくないんだ!」


そんな台詞は卑怯だよ。

そんな台詞を嬉しいと感じさせるなんてズルいよ。

尊とは一時的なのにまるで永遠の約束を貰えるとまた勘違いしてしまう。


「契約に従うわ」


尊が恨めしい。契約と分かっているのに、いずれ捨てられると分かっているのに、私にまた同じ過ちを犯させようなんて。

それを拒めないなんて尊が恨めしい!


尊は触れていた頬から手を離すと暫く運転席のシートにもたれ掛かり顔を手で覆っていた。

そして、ハンドルを叩くように掴むと車を走らせた。


< 92 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop