さよならは言わない
私のアパートへ直行した尊は、私にまるで旅行にでも行くような荷物整理をさせた。
「とりあえずの荷物だけでいい。それから、娘の仏壇は今日運ぶか? それとも後で業者に運ばせる?」
「業者?」
「ここは引き払う。絵里は俺と暮らすんだ。ずっと」
契約期間だけじゃないの?
私を契約期間だけ囲いたいんじゃないの?
ここを引き払ったら私はその後どうすればいいの?
「絵里は俺と暮らすんだ。もう何も心配しなくてもいい。俺に全て任せてくれ」
益々私の頭は混乱するばかり。一時の同居の為にここを引き払うなんて出来ない。
私の行き場を完全に失っては私は本当に尊から離れられなくなる。
そして、捨てられた私は今度こそ生きていけなくなる。
「絵里、俺を信じてくれ。俺は絵里を大事にしたいんだ」
抱きしめられる腕を信じたいしキスされるその唇が真実を物語っていると思いたい。
これがあの時に言われた言葉ならどんなに嬉しかったか。
尊を信じるのは危険だと私の頭の中で警鐘を鳴らしている。
だけど、私を大事にしたいと言う言葉は信じたい。
「私を大事にしてくれる?」
「するよ」
「私を傷つけない?」
「傷つけたりしない!」
「私の娘に誓える?」
尊は娘の仏壇の前に座り手を合わせて約束してくれた。
私を大事にすると。
そして、
「君のお母さんを愛してもいいだろうか?」
本気でそんな台詞を言うの?
私を手に入れるだけのために?
嘘でもそんな台詞を言われたら私は尊となら同じ過ちを犯してもいいとでさえ思ってしまう。
もう、私の心は重症だ。