さよならは言わない

尊は娘だけを置いていくことはできないと娘の仏壇も一緒に運んでくれた。

尊のマンションへ行くまでの間、助手席に座る私は小さな仏壇を抱きしめるように膝の上に置いていた。


「君の娘は幾つで亡くなったんだ?」

「尊には関係ないわ」

「これから一緒に暮らすんだよ。彼女が喜ぶようなお供えものをしてやりたいんだ」


尊は他の男の子どもだと思い込んでいるのに、そんな子どもを大切に扱ってくれると言うの?
本気で美香を大切にしてくれるの?


「絵里の娘なら俺にとっても大切な存在だよ」

「美香は生まれて数日しか生きられなかったの。赤ちゃんによく見られる突然死だと言われたの」

「突然死?」


尊は走らせていた車を路肩へと停めた。

そして、美香の仏壇に触れるとまるで娘を撫でてくれるかのように触っていた。

美香はお父さんに頭を撫でられているみたいよね?


「苦しかっただろう。この子も苦しい思いをしたんだね」

「とても大きなうぶ声だったのよ。元気がよくてとても愛らしくて可愛い子だったわ」

「絵里に似ていて可愛いかっただろうね」

「本当に可愛い子だった。あの子は生きていたのよ。生まれて何日も生きていたのに退院する日を翌日に控えていたあの日、…………美香は冷たくなっていたの。私が気付いた時にはあの子は冷たくなっていたのよ!」


美香が冷たくなったあの日を忘れられない。

どうしても思い出すと苦しくて息が出来ないほどに私の胸は締め付けられそうだ。


「君の恋人はどうしていたんだ? 恋人がいたのだろう?」

「恋人なんていないわ。あなたに捨てられてから男の人とは付き合えなかったの」


ピクリと動いた手は震えだし私を見つめる尊は青ざめた顔をした。

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