さよならは言わない
美香のお墓参りを済ませると尊は私をマンションへと連れていった。
尊は美香の仏壇は自分で運びたいからと私には持たせてくれなかった。
私は自分のバッグと旅行鞄を持つと尊の後について部屋まで歩いていった。
尊は部屋へ着くまで一言も話すことはなかった。
仏壇を抱き抱える尊はまるで娘を抱いているように見える。
きっと、尊は美香を抱きしめているつもりなのだろう。
後ろから見ていて悲しげに見える尊に涙が溢れて止まらなかった。
尊がこれほど美香を想ってくれるのならあの時勇気を出して尊に打ち明けるべきだった。
そうすれば、美香は父親に抱きしめてもらえたのに。
今更何を言っても後の祭りだ。もう、過ぎた日は戻ることはない。
尊の部屋へと案内され玄関から入ると、そこは、私が住む部屋とは程遠い立派な玄関のある家だった。
アパートのような台所兼用の玄関ではなく立派な構えの玄関で、そこから延びる廊下はリビングへと繋がっていた。
「こっちだ」
尊に言われ着いていくと、そこは、素晴らしい見晴らしのリビングだった。
「この子は何時も一緒にいたいから、ここでもリビングに置いておこう」
尊は美香の仏壇をテレビの並びにあるサイドボードの上においた。
仏壇の扉を開け中におさめていた写真を取りだし目を潤ませて見つめていた。
「それは病院で撮影してもらったの。生まれて5日くらいしての美香よ。私に残されたのはそれだけ。後は何も残っていないの」
「写真だけでも良かったよ。俺が娘を知ることが出来たんだ」
悲しみで震える声に私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。