さよならは言わない
尊は暫く美香の写真を眺めていた。私は動けずにどうすればいいのか戸惑ってしまった。
美香を想う気持ちは私と同じなのかもと思うと私は益々尊に妊娠を知らせなかったことを後悔した。
「あの、尊。美香が着ていたベビー服を残しているの」
残されたベビー服だけど、もし尊に見る気があればと軽い気持ちで言ったのだけど、尊には衝撃だったらしく私を見るなり肩を掴んでいた。
「見せてくれ! あの子に関するものは何でもいい。今すぐ見せてくれ!」
何時も私の服と一緒に置いている唯一のベビー服を旅行鞄から取り出した。
尊は身を乗り出すようにして私が取り出すのを見ていた。
旅行鞄の隅から取り出したのはとても小さくて可愛いピンクのベビー服だった。
「こんなに小さいのか? 未熟児だったのか?」
「逆に大きな子だったわよ。女の子なのに男の子の様に元気があったわ」
尊は美香の服を胸に抱きしめると顔を歪ませて涙を流していた。
「君が憎いよ。俺から娘を奪った君を許したくない」
「美香の為に涙を流してくれるの?」
「俺の娘だからだ! 血をわけた自分の娘を可愛いと思っているのは君だけじゃない」
尊を非情な人だと思っていた私は恥ずかしい。
これだけ美香を想う心があるのに、どうして私は尊が残酷で冷酷な人だと思ったのだろう。
あの時、捨てられた時にもっと私の気持ちをハッキリ伝えていれば、今は少し違う未来を送れた?
きっと、尊は何か誤解していたかも知れなかったのだから、もっと食い下がってでも私の気持ちを伝えるべきだった。