絶対、また彼を好きにはならない。

恋の温度を感じて

ガンガンガンガンガンッ
まさに私の髪の毛に彼女がはさみを入れようとしたその時、思いっきり印刷室のドアをノックする音が聞こえた。

「おい誰だ印刷室鍵かけたやつ! みんな使えなくて迷惑してるんだ、開けろ!」
それは聞きなれた声で、でも初めて聞く本気の怒声だった。

慌てて1人が鍵を開けると、その声の当人が思いっきりドアを開けた。

「間宮………さん……」

涙で滲んでその表情は見えない。

彼女は私から急いで離れてはさみをするっとポケットにしまった。
そしてそのまま間宮さんに向き直る。
「北原さんがすごく体調が悪そうなんです。」
そういってへなへなとへたりこんだ私を睨みつける。
彼女達はそのまま印刷室を出ていった。

どくっ、どくっ…
悔しさと安心で声が出ない。

「大丈夫か!北原」
間宮さんが座り込む私に駆け寄ってそっと顔をのぞきこむ。
泣き顔を見られたくなくて、顔を背けてしまった。
「大丈夫…です」
「大丈夫じゃないだろ?!」
のぞきこむ真剣な眼差し。
この人の目はいつだってまっすぐだ。
でも…

「大丈夫って言ってるじゃないですか!!」
自分でも信じられないくらい暴力的な声が口から出ていた。
だめだ…こんなのただの八つ当たりだ。

涙があとからあとからこぼれて止まない。

「北原…」

ほんとはこんなつもりじゃない。
なんでいつも、こうなるの?

「間宮さんに…心配かけたくないんです」

間宮さんはこの言葉に、ひとつため息をついた。

「上司と部下なんか、心配かけてナンボだろ?」
「違うんです、そういうんじゃなくて…」

出てくる言葉は繋がらず、言葉を選んでいるうちに消えてしまいそうになる。

それでも間宮さんはじっと、私の言葉を聞き続けてくれた。

「もう…」
「うん」

私は、最低だ。

「優しくしないでください…」

間宮さんは一瞬顔を歪めた。
そして立ち上がり、心を決めたような顔でまたひとつ息をついた。

その表情は、暗くて見えない。


「お前に優しくした覚えはない」

彼はそのまま印刷室を出ていった。


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