絶対、また彼を好きにはならない。



私は悔しくなって、ソファに座る拓未に向き直った。
拓未はいつだって、私の心を見透かす。

「その人は、咲耶を守ろうとしてくれてるんだよ」

『優しくした覚えはない』
その言葉の真意。
完璧な答えになんて、きっと私はたどり着けない。

彼は諭すように、言葉を紡いでいく。

「自分が気にしてあげていることが、いじめの原因になってること、分かっちゃったんじゃないの」

間宮さんの、思いやりと厳しさ。
こんなにも、優しい痛み。

思い出される全ての表情と行動と言葉が、直に私の心に触れてくる。

私は何も言えなかった。

拓未のしなやかな指先が、私の髪に触れて、そっと耳にかける。

そのまま顔が近づいて、コツンと頭がぶつかる。

「…でも、」

数ミリ先で、動く唇。
ふざけているようで、いつも核心をつく。

私は拓未の心の真ん中を、捉えられているのだろうか?

「さやの頑張りを1番分かってるのは、俺だからね?」

唇の端をくいっとあげて微笑む。
カーテンから、のどかな光が淡くにじんでいる。
彼の甘い顔立ちと伏せた瞳が照らされて、なんだか消えてしまいそうだと思った。

「…うん」
私は小さく、それでも確かめるように頷いた。

拓未はその返事にまたふふっと笑みを零すと、そっと唇に触れた。

重なり合う2つのあたたかさ。
あたたかいものとあたたかいものが重なると、それは愛しさを増す。

お互いを求める度に、くっついて、離れて。
またくっついて。
彼はスタンプを押すように、私にキスを落とす。

好きな人に求められることが、こんなにも素敵なことであること。

私はそっと、彼の白い綺麗な肌に触れた。

「すき」

口から零れでた言葉は、また熱を帯びていた。
彼は少しだけ目をぱちくりした後、照れ隠しに手で口を覆った。

「もう可愛すぎ」
彼が私の方に手を伸ばしそっと肩を抱く。
耳元で声が届いてくすぐったい。

私たちは空白の5年間を埋めるように、
今の自分たちを確かめるように、
お互いの背中に手を回した。






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