絶対、また彼を好きにはならない。
「えっ、こんな高いヒール履くの?!」
「私にしちゃ低いほうだよ」
「えっ、こんな胸元開いた服きるの?!」
「あんたちゃんと胸あるんだから大丈夫だよ」
慣れない服装に舌が饒舌になる。
由香里はイエローの長めのチュールをヘルシーに着こなしている。
いつのまに由香里はこんなにおとなっぽく…
私は手渡されたピンクの短めのドレスワンピに急いで着替え、走って由香里を追いかけようとする。
高いヒールに慣れず、かなりふらふらしてしまった。
楽屋のようなところに入っていくと、たくさんのかわいいキャバ嬢さんたちがいた。
みんな色とりどりのドレスを着こなしていて、ばっちりメイクを決めていた。

「みんなーちょっと聞いてー」
由香里がパンッパンッと2回手を叩くと、騒がしかった楽屋が静まり返り、全員がこちらを向いた。
「今日はここでNo.1をはってくれていた愛梨がお休みなので、この子にヘルプで入ってもらいます!」
十何人の視線がなめるようにこちらを向く。
服の着方があっているのか不安になって、思わず下を向いてしまう。
「愛梨がいなくてもお店が回せるように、頑張っていきましょう!」
「はーい」
みんながそれぞれの返事をして楽屋を出ていく。
みんなかわいいなぁ、一生懸命だなぁ、と他人事のように考えていた。
「ちょっと、咲耶ぼーっとしないで!
今日は2人セットで回してもらうから、私が話を盛り上げておくから。あんたはとにかく笑って毎回やりすごして!」
「えっ、あっ、う、うん!」

あとから聞いたことだが、由香里は仕事をはじめて2週間でNo.2に躍り出たらしい。
ほんとに、由香里には敵わない。

「よし、いくよ、咲耶!」
由香里が楽屋から出ていくのを見て、私も慌てて部屋を出る。
そのとき慣れないヒールにつまずき、ホール前の階段に足を踏み外してしまった。
「あっ」
そのとき、通りかかったお客さんの1人が私を支えてくれた。
その人の胸にもたれかかる形になってしまう。
あわてて体勢を持ち直す。
お客さんに何かあってはいけないと、すぐに顔を上げる。

「すいません、ほんとに!
お怪我ないですか?」

彼は私を冷たい目で見て、
「どんくさい女。」
そう言い放った。
< 9 / 51 >

この作品をシェア

pagetop