ご褒美は唇にちょうだい
「信川、本当に今目の前の仕事が終わらない。後にしてくれないか」


「後なら、考えてくれる?」


「だから無理」


「つれないなぁ。ねえ、食事ならいい?」


食い下がる信川に苛立つ。
ああ、どうして女ってものは面倒くさいのだろう。俺が困っていようが忙しかろうが、自分の都合を優先してくる。下手すりゃ、弱みにつけこんでくる。


「中目黒のー、鉄板焼きのー」


信川がねだるように上目使いに俺を覗いてくる。
苛々としながら、一刻も早く信川との会話を終了させたい俺は、唸るようにため息をついた。


「わかった。明後日なら付き合える」


「やった」


信川は嬉しそうに肩をすくめる。
しょうがない。メシだけ付き合って、即行帰ろう。
明後日は操が久しぶりのオフだ。俺も動きやすい。

こつんと背後で音がした。

それが聞き馴染んだローパンプスの足音だと気付き、顔を巡らせる。
なんてことだ。俺の背後には操が立っていた。
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