ご褒美は唇にちょうだい
12月に入り、操の右手がいよいよ不自由になってきた時点で、俺は操の部屋に寝泊まりするようになった。

生活にサポートが必要な麻痺は起こっていない。
しかし、頭痛などの全身症状からもそばにいて様子を見た方がいいと判断したからだ。

社長にはきちんと断り、許可ももらった。
横ですべての事情を聞いていた信川には散々、「若い担当女優と住むなんて無責任だ。スキャンダルになる」と責められたが、これは俺と操の問題だ。他人に揶揄される謂れはない。
社長の許しが出た時点で、雑音はすべて無視することとした。

操は俺の同居に文句は言わなかった。
むしろ、俺がいることでわずかでも安心しているようにも見えた。

本人が決めたこととはいえ、両親と諍いを起こして頼る相手もない状態だ。
自分のそばに誰かがいてくれることは、単純に生活の励みになるのだろう。慣れた俺ならなお楽だ。

頭痛や吐き気はかなりひどい時もある。
最初、操はひとりで耐えていた。俺に隠れて吐いたり、痛くても平気な顔をして見せたり。
日常の不便も、隠していた。

しかし、ひどくなる痛みと、それに伴う神経の摩耗に、さすがの操も次第に俺に寄りかかるようになってきた。
俺としては、まったく構わなかった。
むしろ、操に頼られ、拠り所にされていることに安堵し、喜びを感じた。
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