ご褒美は唇にちょうだい
「いいよ。操が望むだけしてやる」


久さんは噛みつくように私の唇を奪った。
強く吸い、歯をがちがちと当て乱暴に。
息ができず喘ぐ私を楽しそうに目で犯し、一層唇の重なりを深くする。

私は離すまいと久さんの背に腕を回ししがみついた。

ソファに倒れ込み、動物の捕食シーンのようなキスを交わした。

唇以外にも落とされるキスに今夜こそ先に進んでもらえるかと期待したのもつかの間、久さんはあっさり私の上から退いた。


「はい、おしまい」


ソファから立ち上がる久さんは静かな声音で宣言した。


「……おしまい?」


「操さんがリラックスすることが目的ですからね」


もうすっかり、いつもの久さんに戻っていた。
冷静沈着で、大人のマネージャーに。口調もいつもの敬語だ。

久さんは私にキスしてくれる。
それはこの5年間、習慣のように変わっていない。

だけど、それ以上先には絶対に進まない。
キスで終わり。それは厳格なルールなのだ。

私たちに横たわる圧倒的に深い溝なのだ。
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