ご褒美は唇にちょうだい
彼女と渡り合う為には、もう無気力ではいられない。
こちらも覚悟を決めなければならない。

これだけ、剥き出しの野心を秘めた女を、俺の手で天辺まで押し上げてやれたら、それは最高に面白いことだろう。


「操さん、ひとつだけ」


「なによ」


「今日代役でついた”ゑい子”役ですが、彼女の江戸弁は少し違います。『あのヒト』と言う部分、『あのシト』と発音するのが正しい」


操はむっとした顔をした。
それはそうだろう。彼女は怪我した女優の演技から、記憶したのだ。
耳で覚えたため、前任者の滑舌の悪い発音で覚えてしまったのだ。


「演出の先生は何も言わなかった」


「あなたが代役だったからです。正式に後釜に決まりましたし、次回からは直されるんじゃないでしょうか。何にせよ、背景を知らずに演じるのは恥ずかしいことです」


操はよりいっそう険しい顔をして黙った。どれ、もうひとつ自尊心をくすぐってやれ。


「無知では一流にはなれないのでは?」

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