ご褒美は唇にちょうだい
「そのことを悩んでいたんですか?ここ最近、ずっと」


「そうよ、悪い?駄目なんだもん、その一点だけが不安で黒い染みみたいに広がって、頭の中をぐちゃぐちゃにする」


操は長い髪を掻きむしり、苦しそうにため息をついた。

哀れだ。幼い頃から芸能界で育ち、青春にも背を向け演技だけを追求してきた彼女なのに、肝心の遊びの経験がないばっかりにキスの演技に迷っている。

小手先だけの技術でごまかすことはできるだろう。彼女ならきっとできる。
しかし、彼女の心がそれを良しとしていない。

自分に足りないものが無性に不安だなんて。
どこまでこの女は面倒くさくて、どこまでひたむきなんだろう。


「操さん」


思えば、気の迷いではなかった。
彼女の中に滾る情熱に心が動かされた。

彼女が実力で代役をもぎ取った時のように、鳥飼操の強すぎる我執に惹きつけられたのだ。


「俺でよければ、練習相手になります」


「久さん……、何言ってんの」


操がさすがに引いた顔をした。口の端を引きつらせて俺を見上げている。
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