ご褒美は唇にちょうだい
幼い頃、環も私と同じ事務所に所属し、子役をやっていた時代がある。
しかし、環はいつだって泣き通しで「帰る」を連呼する子どもだった。
心底この業界が嫌いなようで活動していたのは一年ほど。
その後は、勉強を重ね、私立の中高一貫校に入学、そして現在は医大生だ。

両親からしたら、医者を目指す妹の環の方が幾分いい子だろう。


「彼氏、元気?仲良くしてる?」


環は私と違い恋愛経験が豊富だ。


「まだお姉ちゃんのことは言ってない」


環の中でのバロメーターとして、本気で長く付き合う人、この人なら大丈夫と思った人にだけ、姉が女優をやっていることを告げるのだ。
環曰く、『お姉さん紹介して』とかその流れで業界人のツテを欲しがるようなヤツはいらないそうだ。

今までに話したのはたったひとりだと聞いている。その彼とは残念ながら高校時代に破局している。


「私のことを紹介できる人だといいね」


「どうだろうね」


環はドライにつぶやき、フォークをタコのマリネに突き刺した。
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