ご褒美は唇にちょうだい
「先方の事情が変わりました。ここからは操さんにつきます」


「別にいいわよ。久さんは事務所に戻ったら?」


「いえ、操さんの演技をチェックするのも大事な仕事ですから」


久さんは静かにそつなく答え、私の背後に影のように立った。

身長は185センチ、黒髪はいつもワックスで整えられ、その下には端正な目鼻立ちが見える。

切れ長の瞳、高い鼻、薄い唇が年より上に見えると、プロダクションの三雲社長が言っていたのを思い出す。

感情を表に出さず、いつも私の後ろに付き従う彼は、私の騎士だ。

鳥飼操という若手女優が栄達するため、ありとあらゆる手を尽くしてくれる。

19歳の時、日本演劇大賞の新人賞を取れたのも、久さんがいてくれたから。

感謝の言葉は言わない。
心で思うだけで充分彼には伝わっている。



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