ご褒美は唇にちょうだい
「三雲社長がこの後、打ち合わせしたいと言っています。今日の撮りが終わったら、事務所に直行しますが、予定は問題ないですね」


久さんは知っていて確認してくる。
嫌味な人。

私にプライベートの予定なんてものはほとんどない。
芸能界に友人はいないに等しいし、一般の友人だってろくにいない。

すなわち、私にプライベートを聞くこと自体、無意味なのだ。

そりゃあ、たまには「今日はジムでトレーニングする」とか「今夜は台本を入れちゃいたい」なんて予定はあるけれど、それは久さんも把握している通り。


「問題ないけど、結構遅くなるよ。社長、大丈夫なの?」


「溜め込んだ仕事が終わらないようですから、ちょうどいいでしょう」


そこに、助監督の湯川さんと斎藤さんがやってくる。
監督たちは総じて演出と呼ばれるけれど、助監督待遇の演出さんは今回の現場で3人いる。


「鳥飼さんすみません。次のシーンなんですけど、絡みのある下條さんが、ロケ先から戻ってこれなくて」


湯川さんが言う。

相手役の下條さんは、人気アイドルグループに所属していて、主人公の元恋人役だ。

春の嵐が来ているらしい。
おおかた、飛行機が飛ばなかったんだろう。
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