ご褒美は唇にちょうだい
リビングに向かうと、小さなベランダに出る。
初夏の夜風が心地よい。

私がそうしてやり過ごしているうちに、久さんは帰っていった。
スマホには明日の迎えの時刻だけが連絡されてあった。

仕事に関しては抜け目なくて、困ってしまう。

一ミリも動揺してもらえなかった。
歯牙にもかけてもらえない。

まったく彼は距離感の設定が上手で困る。
もっと不確かでぐちゃぐちゃな関係ならよかったのに。

ベランダの手すりによりかかり、額をくっつける。

涙はするすると落ち、ベランダにいくつもの染みを作った。





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