抜き差しならない社長の事情 【完】
***
紫月が亜沙美と住むマンション脇の路上に止まる車の中で、
1人の男が、
マンションの入り口を見つめていた。
唇を噛みながら、
指先で時間を計るようにして、ハンドルを叩いているその男は――
株式会社Kgの社長、切野蒼太だ。
切野社長が待っているのは紫月ではない。
紫月がとっくに部屋に帰っていることはわかっていた。
時々、フロントガラス越しにチラリと上を見上げては、溜め息をつく。
そんな風にして社長が見つめる部屋は、
紫月が上がっていってから明かりが灯った部屋だ。