抜き差しならない社長の事情 【完】

「あいつは、ハッピーに入るまで30社かな? 面接で落ちたらしくて」

「え? そんなに?」



「大学卒業してから、仕事は何もしていなかったみたいなんですよ。
 そのまま何の資格もないし、バカ正直にパソコンが苦手なことを隠さないし、26歳で職歴がない女じゃ、バイトならいざ知らず、雇う方もまぁ考えちゃいますよね」


「事務じゃなければ、アパレルとかなら……美人ですし」


「ええ、仕事を探しながらバイトでショップの店員はしていたみたいですけどね、
 ショップのブランドの服を常に買わなくちゃいけないから金がかかったらしいし、紫月は大人しいから色々きつかったんじゃないですか。
 本人は何も言わないけど、ハッピーで事務の仕事について精神的に楽になったって言ってましたよ」


めくり皺で厚くなっている付箋だらけのソフトウェアの実用書が3冊。

1冊づつ手に取って繁々と見ていた切野社長は、

本を元の場所に戻すと


「ところで、どうですか? ここに来て不便なことはありませんか」

とあらためて相原に聞いた。



「私は何一つありませんよ。全てが快適です」

「私はというと、夢野さんにはあるんですか?」

「彼女はね、制服がないことが辛いと言ってました」


「制服?」

「ええ」
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