冷酷上司の甘いささやき
はあ、とにかく疲れた。私が課長に背を向けて、自分の席の片づけをしていると。

「戸田さん」

と、課長に名前を呼ばれた。


どうしよう、なにか間違っていたかな。とたんに不安になり、私がおそるおそる「はい」と振り返ると。


「俺、このデータすぐにチェックして帰り支度するから、着替え終わったら営業室戻ってきて。夜遅いから駅まで送ってく」


え……?



「いっ、いいです、そんな! 遅いって言ってもまだ夜九時ですし、全然遅くないですし!」

「いいから。俺が残業頼んだんだし」

「い、いえ! こんな遅くまで残ったのは日中に窓口でいろいろあったからで、課長のせいではないですし……! そ、そもそも私の仕事が終わらなかったせいで課長もこんな時間まで残らせてしまったわけですし……!」

そうだ。私、課長は課長で自分の仕事をして残ってるんだと思っていたけど……私がさっき渡したデータのチェックが終わったらすぐに帰れるってことは、明らかに私待ちで残ってたわけで……。


「な、なので本当に……!」

結構です、と言おうと思ったけど、課長がいつもの鋭い目で私を睨んでいた。ひえー怖い! で、でもそうだよね、課長だって私なんかをわざわざ送っていきたくなんかないだろうけどせっかくご厚意でそう言ってくれてたのに、私がこんな風に力いっぱい断ったら、そりゃいい気はしないよね……!
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