冷酷上司の甘いささやき
すると、部長席から部長が書類に目を通しながら、私に言う。

「戸田ぁ、遠山がこう言ってるんだからおとなしくいっしょに帰れ。最近物騒だろ。むしろ送ってもらえ。部長命令」

「は、はい。では、更衣室で着替えたらすぐに営業室に戻ってきますので、よろしくお願いいたします」

申しわけなさすぎて、そして動揺して、私はそんな堅苦しい言葉づかいになってしまいながら、必要以上に深いお辞儀までしてしまった。


私は急いで自分の机を片づけ、いったん営業室を出る。


更衣室へ向かう階段を下りながら、私はさっきの課長の言葉を思い返す。


最近物騒だから、という理由でそう言ってくれたんだろうっていうのはもちろんわかってる。本当はめんどくさいと思ってるだろうし。


でも、私のことを気にかけてそう言ってくれたのは事実だ。課長って、わかりにくいだけで、私が思っているよりも本当はやさしい人なのかもしれない……。




「すみません、お待たせしましたっ」

更衣室で着替えを終えて、営業室に戻ると、課長ももう帰り支度を終えて営業室の入り口で私を待っててくれた。


「部長、お先に失礼します」

「お先に失礼しますっ」

課長に続いて部長にそうあいさつすると、私は先を歩く課長のうしろをついていく。
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