冷酷上司の甘いささやき
「いいよべつに。まあ、危ないから時間考えろとも言いたくはなるけど。映画好きなら、疲れた時は観たくなるよな。誰にでもストレス解消法はあるだろうし」

……課長は冷静に、とくに怒った様子もなくそう言ってくれた。


……わかってくれた。少なくとも否定はされなかった。



「……あ、ありがとうございます。本当にすみませんでした。あ、あと、その、こんなことをお願いするのは非常におこがましいのですが……その」

「なに? あ、誰にも言わないよ? ひとり映画もひとりビールも」

「ほ、本当ですか⁉︎」

口止めをお願いする前に、課長は私の言いたいことを察してくれたようだった。


「たぶん、誰にも知られたくないんだろうなっていうのはなんとなくだけどすぐに感じた。会社にいる時の戸田さんとイメージ違うし」

「プ、プライベートでは、その……ひとりでいるのが好きなんですけど……友だちや会社の人たちのことはちゃんと好きなんですよ。だから、その人たちに自分のこういう変なとこ、知られたくなくて」

「変とは思わないけど。俺もひとりでいるの好きだし」

「そうなんですか?」

「だから彼女ができても誘う気になれなかったんだって。彼女できてもめんどくさいだけじゃん。ひとりで過ごす時間減るし」

「わ、わかります! 友だちや同僚は大切だけど、べつに恋人を作る必要性はないというか、恋人がいるメリットがないというか……」
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