冷酷上司の甘いささやき
なんか無理やり話進んでる!

……でも、妙に甘酸っぱくてむずがゆい感じよりは、このくらいあっさりした感じの恋愛の方が、恋愛不適合者の私にはちょうどいいかも……。



「まあ、無理やり頷かせたのは冗談。返事はいつでもいいから」

課長はそう言うと、じゃあな、と付け足して私に背を向ける。



……課長のことが好きなのか、まだわからない。
でも、それでいいのかも。
恋人らしいことをする関係じゃない。課長も、まだ私のことを『好き』とまでは思ってない。それに、今は……



「……あのっ、課長!」

一分でもいいから、もう少しだけ課長と話していたくて、私は課長を追いかけ、呼び止めた。

課長は振り向き、「なに?」と答える。



「……あの、お付き合い、しましょう」

「え?」

「よ、よろしくお願いします」


……返事はいつでもいいと言われたのに、ちゃんと考えずに結論を出すなんて、今まで恋愛に関心のなかった私らしくない。


でも、なんか。課長といっしょにいる時間が増えればいいな、って思ったから。



「……よろしく」


……そう言うと、課長は一瞬だけだけだけど、でも確かに、見たことのないくらいににっこりと笑った。



……普段クールな課長のこの笑顔を知るのは、私だけ。そう思うと、また胸がうれしくなる。




こうして、私と遠山課長は、普通の恋人同士とは少しだけ違う、ちょっと距離感のある彼氏彼女となった。
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