冷酷上司の甘いささやき
……だけど、頭上から降ってきた言葉は。


「ごめん」

「え……?」

私はゆっくりと顔を上げた。

すると課長は。


「営業課で二次会あるからさ、ちょっと行けない」

「え、あ……そう、ですよね」

「悪いな。シラフで二次会もあれだけど、独身は二次会も断りづらいわ。家で誰も待ってないし」

「……阿部さん」

「ん?」

……今日は阿部さんの話はしないようにしようって決めてたのに、つい、その名前が口から出てしまった。


「阿部さんも二次会、行くんですか?」

「そうだな。ていうか、営業課だけで阿部さんの歓迎会っていうか」

「……」

「戸田さん?」

「あっ、いえ! 楽しんできてくださいね!」

……いけない。感情が顔に出るところだった。

”そんなの行っちゃやだ”なんて、言えるわけない。
付き合いだって大事だし、私だって、ひとりが好きとはいえ、事務課で二次会やるっていう話になれば、きっと参加するだろう。付き合いだって大事だ。


ましてや、課に新しく加わった社員の歓迎会となれば、なおさら。



「せっかく誘ってくれたのに、悪いな」

「い、いえっ、私の方こそ急にすみません! あっ、私、ほかの人にもお酌いってきますね!」

……恥ずかしくて恥ずかしくて、私はビール瓶を持ち直して、逃げるようにその場から離れた。



誘ったりするんじゃなかった。
課長は私のこと『気になる』って言ってくれてたけど、『好き』ではないんだっていうことが痛いほどわかった。
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