冷酷上司の甘いささやき
と言ってくれた……。



「え、えっ」

どうしよう。顔が熱くなって、言葉につまる!
どんな顔をしていいのかわからなくて、思わずまたうつむく。


……でも、うれしい……。



”恋人らしいこと”なんて、私たちには必要ないはずだった。むしろない方がいいはずだった。
だけど、彼氏にこんなこと言われて、うれしくならない人なんているわけない……。



ドクンドクンと胸が激しく脈打つ。

私たちの”距離”、もっと縮めたい――そう思ってしまった。
きっとその考えは、私らしくない。
日野さんみたいに恋愛に前向きになったわけでもないだろう。

ただ、相手が課長だから。
課長が、私を私らしくさせない。
私らしくない私は、果たして課長が好きになってくれた私なのだろうかと不安にもなるけど、距離を縮めたいというその思いは、加速するばかりで……。



「……あ、の」

真っ赤になっているであろう顔を上げて、私は課長を見つめた。


そして。



「……今日っ、この飲み会が終わったら、い、いっしょに私の家に行って、その……っ、と、泊まっていきませんか……っ?」



……言ってしまった。



こんなことを男性に言うのは初めてだった。元カレにも言ったことないし、言いたいと思ったこともなかった。誰かとひと晩中いっしょにいたいなんて、一切感じたことがなかった。

だけど、紛れもない本音だった。



恥ずかしくなって、私はやっぱりまた下を向いた。

でも、「いいよ」ってたぶん言ってくれると思って、そんな言葉を期待してた。
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