ナイショの恋人は副社長!?


翌日、午前十時過ぎ。
優子は成田国際空港にいた。

「お忙しいのに、わざわざ見送りまで来てくださるなんて」

ドリスが髪を掻き上げながら「ふふっ」と笑う。

「いえ。こちらこそ、今回は遠いところご足労お掛けいたしまして……次に機会があれば、今度は我々が」

敦志が笑顔で対応すると、横にいた純一も慣れないドイツ語で挨拶をする。
そこに、手荷物を預け終えたヴォルフが優子の姿を見つけ、一番に声を掛ける。

「ユウコ! 来てくれたの?」
 
優子は敦志や純一、芹沢よりも一歩後ろに下がって立っていた。
 
優子は会釈をし、手にしていた紙袋を両手で差し出す。

「あの。お花は……お返しすることが出来ませんでしたが」
 
その袋の中には、以前ヴォルフに貰った衣服一式が入っていた。
気持ちに応えられないからと、律儀にそれを返しに空港までやってきた優子に、ヴォルフは声を漏らして笑った。

「いや。これは、キミにあげたことに変わりないんだから。それとも、この程度も許容してくれない彼氏なのかい?」
 
優子が差し出す袋を拒否するように首を横に振り、敦志を横目で見ては嫌味交じりで言う。
敦志はそれを受け、表向きは平静を装い表情も変えずにいたが、内心では少しムッとしてふたりを見ていた。
 
優子は伸ばした手を下ろせず、困った目をヴォルフに向ける。

「でも……」
「もう手荷物も預けてしまったしね」
 
そう言うと、ヴォルフは優しく優子の手を押し込めた。

「ものにも君にも、罪はないよ」
 
ヴォルフに笑顔を向けられて、優子はとうとう受け取ってもらうことを諦める。

「ところで……昨日、ふと思ったんだ。武道を嗜んでいたユウコなら、オレのことなんか何度もかわせたんじゃないのかな?って」
 
すると、優子は今まで目を合わせていた視線を下げ、少し間を置いて小さく答えた。

「……いえ。もう身体が鈍って(なまって)いますから」
「派手に歯向かえば、サオトメ(彼)に不利になるかもしれないからってとこかな?」
 
優子の様子を見て、それが気遣いからの嘘だと見破ったヴォルフは、眉を下げる。
そして、純一と敦志に向かってさらに言った。

「強くて聡明で、優しいな。キミのとこの社員は」


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