ナイショの恋人は副社長!?
エピローグ
 
今日は、本来休日である土曜日のため、敦志が車を出す。
純一と麻子はまた別の車で来ていたので空港で別れた。
 
優子は敦志の車の助手席に緊張した面持ちで座り、流れる景色を眺めていた。
沈黙の中ハンドルを握る敦志が、進行方向を見ながら口を開く。

「オレは今までの人生、無意識に大切な人を守ることだけを考えてた。だけど、それは違うのかもしれないな」
 
不意に始まった話の内容に目を丸くして、敦志の横顔を見た。
優子の視線に気づきつつも、敦志は前を向いたまま続ける。

「共に生きたい相手とは、互いに守り守られる――そういうものなのかもしれない……なんて。いつも真っ直ぐで、強い瞳の優子さんを見てそう思った」
 
優子は膝の上に置いた手に視線を落とし、はにかんだ。

「じゃあ、私、練習さぼらないようにしなくちゃ」
「いや。守ってもらいたいのは身体じゃないよ。それはオレの役目だからね」
 
即座に否定された言葉に顔を上げたのと同時に、車が信号に捕まって停車した。
徐に敦志は首を回し、優子と目を合わせて言う。

「正直、ずっと気を張るというのは疲れるから。時々寄り掛からせてくれる?」
 
そっと、優子の黒髪を左手で掬い、それを口元に持っていく。
髪にくちづけられる様を、ドキリとして見つめていた。
 
敦志の伏せられた長い睫毛に魅入ってしまって、言葉を出すのも忘れてしまう。

「そのままの君でいいから」
 
敦志の目が自分に向きそうで、優子は伏し目がちになって答えた。

「わ、私にできるならいつでも……」
 
緊張のあまり瞳を潤ませた優子を見つめながら、敦志がするっと髪の毛を手から滑らせる。

「オレは優子さんがいい」
 
最後の毛束が落ちていくと、その左手を優子のシートに伸ばす。
そして、触れるだけのキスをする。
 
――たった数秒間の出来事。
 
それなのに、触れられた髪と唇に、いつまでも残る彼の感触。
ゆっくり見上げると、優しく微笑む敦志に動悸が止むことはない。

「私も……あなたが、いい」
 
小さく口を開いた優子がそっと手を伸ばし、敦志に触れるまで、あと二秒。
 
時間(とき)は止められない。だけど、優子はもう、そう願うことはない。
きっと、この幸せがこれから先も続くと信じて。






おわり
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