ナイショの恋人は副社長!?
「先程のお話ですが、噂は本当なのですね」
「ええ。祖父は引退して、父に引き継がれる予定で……。こちらのそんな事情で、若輩者の私たちが今回の訪問を任されまして。申し訳ありません」
「そんな。ヒメル社の未来を担うおふたりでしょう」
 
敦志とドリスが会話を重ねていると、秘書の芹沢がコーヒーをテーブルに出す。
ヴォルフは、芹沢に満面の笑みで「Vielen Dank(ありがとう)」と言うと、カップに手を伸ばした。

遅れて腰を下ろした純一が、コーヒーを口に含むヴォルフに向かって笑顔を見せる。

「優れた工業技術者・技能者がいるという、世界に冠たる工業立国で、ヒメル社は大企業だと存じています。そんなヒメル社と、契約の機会をいただけて光栄です」
 
カチャリとカップを戻すヴォルフもまた、笑顔を浮かべた。

「そちらこそ。日本のシステムは優れていると聞いているが、その中で、この〝藤堂〟が抜きんでていると」
 
まるで答えを用意していたかのように即座に返すヴォルフを、敦志は一歩離れた場所からジッと見つめる。

「これまで、何度か資料等はお送りしていましたが、確認のため……と他に数点新しい内容を盛り込んだ書類が……」
 
純一が資料の束を手渡すと、ヴォルフはパラパラと流すようにページを捲った。
最後の一枚までたどり着くとそのままテーブルに置き、明るい声を上げた。

「――Alles klar!(わかりました)ところで、僕たち、これからちょっと観光でもしてみようかと。なにかお勧めはありますか?」
「いいですね。滞在時間は限られてるでしょうけど、少しでも日本を楽しんでいただけたら。お勧めは、よければこの後、芹沢が提案させていただきます。それと、本日のディナーはこちらにお任せください」
 
敦志がヴォルフに説明すると、彼は芹沢に目を向け、歯を見せて二カッと笑う。
そして、再び敦志に視線を戻すと、部屋の出口を見て言った。

「さっきの彼女は? ディナーには同席しないのかな?」
「え?」


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