ナイショの恋人は副社長!?

「初めまして。藤堂です。そして、隣は私の片腕である、副社長の早乙女です」
「早乙女と申します」
 
優子が去った後の応接室では、ドイツ語で堅苦しい挨拶を交わし始めていた。
純一に紹介される形で挨拶をした敦志を見て、ヴォルフは目を丸くさせる。

「Wie geht es Ihnen?(やあ、調子はいかが?)通訳の人かと思ったら、そうじゃないんだ。驚いた」
 
少々大袈裟に驚いて見せるヴォルフに、純一は至って冷静な表情で返した。

「私は恥ずかしながら、あまり得意ではないのですが。この早乙女は、ドイツ語が出来るので」
「へー。すごい。でも、ご無理なさらず。英語でも構いませんから」
「兄様、きちんと挨拶もせずに失礼よ。初めまして。彼はヴォルフ・シュナイダー。そして、私はドリス・シュナイダー。お会いできて光栄です」
 
感心しながら、ヴォルフはひとり掛けのソファに腰を下ろし、長い足を組む。
彼を兄と呼ぶドリスは、淑女さながらの挨拶をし、純一と敦志に笑い掛けた。

「社長である祖父は、今、色々と立て込んでいまして」
 
ドリスは今度は英語で話を続けると、敦志が彼女の横へを移動して上座のソファへと促す。
ドリスが腰を下ろしたのを見届けてから、ニコリと笑った。

「素敵な洋服ですね。貴女にとてもよくお似合いです」
「……ありがとう」
 
黒い瞳を細め、柔らかな雰囲気で言われたドリスは、頬を少し赤らめる。
ドリスへの褒め言葉だけをドイツ語で伝えた敦志は、引き締めた表情に戻して英語を使って話を戻した。

< 26 / 140 >

この作品をシェア

pagetop