ナイショの恋人は副社長!?
 
社長室を後にして副社長室へと戻った敦志は、椅子に腰を下ろすと、今一度メモを見た。

(わざわざオレに声を掛けるということは、気に入ってくれたのだとは思うけど。まさか、縁談だなんて突飛な話……)
 
そんなことはあり得ないと考える敦志は、小さく鼻で笑うとメモをデスクに置いた。
 
ドリスへの連絡は、優先すべき仕事の後にでもしようと思い、パソコンを開く。
同時に、デスク上に山積みされている資料を手にし、パラッと捲った。
 
いつもであれば、仕事となれば簡単にスイッチが入る敦志だが、今はそれがどうにもうまく切り替えられない。
 
その理由は、先程の優子にあった。
 
医務室で目を覚ました優子は、結局あの後、敦志の気遣いを丁重に断っていた。
 
敦志が優子に遠慮しないようにと話の途中、医務室に敦志宛の内線が入る。
それによって話が一度中断されたことがきっかけで、優子は当初の意思を貫いて、敦志に送り届けてもらうことを遠慮した。
 
早退したことは間違いないが、無事に家に帰れたのかどうか。
そして、内線が鳴る前に見せた優子の泣きそうな笑顔が、今でも鮮明に残っている。
 
元々、面倒見のいい性格ではある。近所の子やクラスメイトにも、細やかに気を配っていたタイプだ。

そういう面で言うならば、敦志は秘書という仕事の方が適しているのかもしれない。
そんな敦志だからこそ、優子の微妙な変化に気づき、知らぬ顔も出来ずに気になってしまう。

それと、もうひとつ。

「ヴォルフ・シュナイダー、か」
 
敦志は、自分が優子を気にしている理由はヴォルフにあると思っている。
ヴォルフの真意がわからないまま、ただ黙って優子に近づいていくのを見てはいられない。

(ちょうどよかったのかもしれない。彼女(ドリス)は妹だ。彼(ヴォルフ)のことを知る存在であるに違いない)
 
ドリスの番号が掛かれたメモを、もう一度見る。
敦志の頭は、ドリスのことよりも、ヴォルフについて探る好機だということしかなかった。

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