ナイショの恋人は副社長!?
恋人

「こう言ってはなんだけど、私には、彼女に大きな特徴があるようには思えないわ」
 
夜景が一望できるレストランで、手にしたワイングラスを見つめたドリスが言った。
敦志は、足元から天井までの大きな窓ガラスに、優子を思い浮かべる。

「確かにあの日、突然ヴォルフに意見したのは驚いたけど、オフィスのあの子は至ってフツーの平凡な子だったわ」

(フツー、か。俺にはそう見えないんだけどな)
 
窓から赤ワインを口に含むドリスに視線を移し、心の中で否定する。
 
確かに、敦志も初めはドリスと同じような目で優子を見ていたかもしれない。
けれど、今や、優子は敦志にとって〝平凡〟な社員という存在ではない。

言葉で表し難い、独特なオーラを纏っているのは優子だけ。

普段は確かに目立つ方ではなく、静かな佇まいで微笑を浮かべている。
だが、少し踏み込んだ先に見えたのは、優子の凛と研ぎ澄まされた空気と眼差し。

単に落ち着いているという言葉だけではない優子の雰囲気に、言葉を交わすまでは気がつかなかった。
今では、遠くからでも、すぐに優子だとわかる。
 
強く在るのではないかと思わせながら、時折、ひどく弱々しく見える優子が、敦志の中で、いつしか特別な存在となっていた。
 
守りたいと思うのに、簡単にそうさせてはくれない。
 
そのもどかしさに、敦志は珍しく焦燥感を抱いていた。

「別に悪く思っているわけじゃないの。ただ、彼女……なんだか、他人を寄せ付けないような雰囲気を感じて」
 
敦志に印象を悪くさせないように、ドリスは慌てて補足する。

(寄せ付けない……確かに、そう感じる時もあるかもしれない。まさに、さっきもそうだ)

< 74 / 140 >

この作品をシェア

pagetop