ナイショの恋人は副社長!?

受付で拒絶されたことを再び思い返し、頭の中は、優子とヴォルフのことでいっぱいになる。

(今頃、ヴォルフと何をしているんだろうか。危険はないのか? こんなことなら、彼女に連絡先を伝えておくべきだった)
 
心此処に非ずの敦志を目の前にしているドリスは、敦志の心に余裕がないことを察する。
さらに、今、一緒に居るのは自分であるはずなのに、気持ちが他に向いていることにも気づいていた。
 
どうしても、振り向いてほしいと思うドリスは真っ直ぐと敦志に目を向け口を開く。

「ドイツでは、女性でもあまり服に気を遣わない人が多いの。実用性重視でね。私も、そこまでファッションには拘りがなくて、自信がなかったわ」
「そうなんですね。でも、服装はあくまでひとつのポイントですし。最大の魅力は、その人自身だと思います」
 
ドリスの会話に、敦志は口角を上品に上げ、嘘偽りのない言葉を返した。
その紳士的な対応に、ドリスは頬を薄らと赤らめる。
 
照れるドリスは敦志を直視できなくなって、視線を下げて泳がせた。
テーブル上に置かれた前菜を見ながら心を落ち着け、改めて顔を上げると、ドリスは真剣な目で言った。

「だから……。初めて会った時に、アツシが私のドレスを褒めてくれてすごくうれしかった。あなたは、社交辞令のつもりだったのかもしれないけど、私にはとても印象的な出来事だったわ」
 
その言葉だけならば、単なる礼として受け取ることも出来た。しかし、ドリスの表情を目の当たりにした敦志は、それ以上の気持ちがあると感じる。
 
言葉を選ばなければならない、と間を置いてしまった敦志にドリスは畳みかける。

「出会って数日だけど、私、アツシが好きになったみたい」



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