風を浴びて
それから何日か過ぎ、その日は突然やって来た。

由奈が仕事から帰りベッドに倒れ込むと、すぐ携帯がなった。眉間にシワを寄せながら、眩しそうにディスプレイを除き込む。

そこには病院の名前が出ていた。


由奈は一気に目が見開き、慌てて電話に出た。


「もしもし!」

「あ、由奈さん!石橋さんの意識が戻ったの!」

「すぐいきます!」


由奈はすぐ電話を切ると、財布と携帯だけもって部屋を出た。



病院に着くと看護婦さんが正面玄関で待っていてくれた。夜間の出入口だと時間がかかるからとのことだった。

病室に着くと、いつも横になって目を閉じているだけだった由宇が座っていた。まわりには主治医の先生、看護婦さん、由宇の両親が来ていた。


病室の扉が開くと同時に、みんなの視線は由奈に集まった。
由奈は心配そうな顔で、由宇と目があった。由宇はきょとんとした顔をこちらに向けた。


「…」

「…」


あれだけ話しかけてきたのに、言葉がでないとはこのことだろう。沈黙のなか慌てて看護婦さんが、状況を説明し出した。


「えっと先ほど目が覚めたみたいで、頭はまだぼーっとしてるんです。最初指が少し動いて、それから目覚めたような感じです。受け答えもしっかりできていますし、記憶には問題…」

「母さん、あの人は?」

「え?」


回りの空気を凍り付かせるのには、十分すぎる一言だった。


「…あ、や、やだ!もう!由奈ちゃんよ!ほら!」

「ゆ…な…?」

「覚えていないのか?」


両親の訴えるような眼差しに、由宇は必死に頭を抱えていた。
由奈は由宇に近づくと、しゃがみ込み顔を除きこんだ。


「今、目が覚めたばかりで頭を抱え込んだらダメだよ。また、目が覚めなくなったら困るでしょ?」

「あ…ごめん…なさい…」

「私は大丈夫だから、ゆっくりこれから時間かけて思い出しましょう。ね?」

「うん…わかりました…」

「今日はこれで帰ります。明日の仕事もあるので。それじゃ」


由奈は周りが声をかける隙がないほど慌てて病室を出た。
廊下をいそいで歩き、エレベーターを待つ。こんなときに限ってなかなか到着しない。

やっと到着し扉が開くと、そこには私服姿のあの男がいた。


「…泣いてんの…」


その言葉と同時に由奈はその男にしがみついた。男は驚きエレベーターの行き先も押さず、そこには由奈の泣き声だけが響いた。


「…お願い…お願い先生…教えて…ください…」

「…あんたはあの時の…」


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