風を浴びて
男はめんどくさそうに、頭をかいた。
それから由奈を自分の車にいったん乗せると、コーヒーをもって戻ってきた。


「あんなとこで泣かれたら勘違いされるから」

「ごめん…なさい」

「何があった」

「…先生の…言ったとおり…彼の記憶には…」

「あんただけ残ってなかったわけだ…」

「必死に…思い出そうとする…姿見たら…心配になって…ゆっくり思い出せばいいって…言ったんです…」

「ふーん…まぁ確かにただでさえダメージ受けて今まで寝てたやつに、無理に考えさせるのは良くないから、その行動は正解。だからってそのあと泣きじゃくって俺にしがみつくのは不正解」

「すいません」

「はぁ―…やっと帰るとこだったのに…」

「あの…堺先生。教えてください!」

「何で俺の名前…」

「なくなった記憶を取り戻すには、どうしたらいいですか?」

「どうしたらって…」

「手術じゃどうにもならないんでしょ?」

「あぁ…よくある話は、同じショックを与えるとかあるけどそれもダメだ。リスクが高すぎる」

「じゃぁ」

「俺がこの前聞きたかった話には続きがある。"あなたのことを覚えている保証はない"って言ったよな?」

「はい…言われました」

「俺が聞きたかったのは、記憶がなくなってからのことだ。記憶がなくなってから、記憶を取り戻すために通いつめる覚悟があるのかってこと」

「そう…だったんですね…」


「記憶を取り戻すためには、少しでも長い時間一緒にいることが大事だ。その代わり、またいつ記憶が戻るかわからないという長い時間がかかってくる。寝たきりで毎日見舞いに来ていたあんたが、記憶を取り戻すまでまた通いつめることができるか?」

「…通います…」

「寝たきりの時とは違って、現実を目の当たりにすることが増える。言葉として直接聞かされるぞ」

「それでも、構いません。私にこれから教えてください!」


堺はため息をつき観念したというような顔をした。


「わかったよ」



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